今井正「望楼の決死隊」
あの今井正が? というほどの、西部劇さながらのアクション映画。
国策色はあるが、それよりも警察官の人情が前面に描かれている。
現地ロケーションも行なわれたという大作で、高田稔、原節子というキャストが、すごいね。
以下、ヴィデオ付録の解説より
東宝映画が朝鮮総督府の後援、警備局の指導、朝鮮映画の応援を得て制作したもので、朝鮮国境警備官の戦いを描いたアクション映画である。[…] 総督府刑務局と平安北道警察当局の協力の下に現地視察の上、山形雄策と八木敬一郎が脚本を執筆。事実に基づいて何度も書き直されている。
ときは昭和十二年。朝鮮国境附近。満州側ではなく、朝鮮側らしい。
国境を護る警察官たち。なにから護るのかというと、「匪賊」たちからである。
「匪賊」の存在は、僕が満州について調べていた、はじめのころに出会った本、渡辺雅子『満洲分村移民の昭和史』(彩流社、2011)で知った。
軍隊が駐屯してから賊もさるもので、道路の悪い奥地を襲撃し、収穫したばかりの穀物を奪い取って逃げてしまう。ところがこの匪賊集団を特定するのが難しい。昨日は善良な部落民として生活していたものが、明日は凶悪なる賊徒と化し、裕福な部落を襲い、金品を強奪するという。このような手口で、討伐隊もめったに匪賊に遭遇することがない。しかし、一度遭遇したとなると匪賊は討伐隊に一人残らず殺される。[…]
スターウォーズの、タスケン・レイダーみたいなものだと、理解している。
話を戻すと、この映画、僕は、満州側からの視点だと思いこんでいて、今回見直して、誤解をあらためた。
それにしても、国境付近に変わりはなく、「河に氷が張れば、匪賊はどこからでもやってきます」といったセリフの「河」は、豆満江を指す。
そして、零下30度の真冬に、匪賊が攻めてくるのを死守するというはなし。
とにかく、映画は、アクションシーンも含めて、おもしろいものですよ。今井正じゃなければ、こうもみせないだろうと思う。
零下30度という寒さは体験したことがないのでわからないが、警察官同士の会話で、「鴨(カモ)の鎌(カマ)刈り」のエピソードが語られる。
池なんか一瞬で凍ってしまうから、鴨が凍った池に立ったまま、足元が凍りついてしまい、動けないでいる。その足を鎌で刈って、鴨狩りをするという、ジョーク。
同じようなことを、志ん生師匠の落語に思いだした。「刈った鴨の残った足から翌春、芽が出。「カモメ」」というオチだった。
国策映画だと敬遠せずに観てみると、こういう映画も、なかなかいいものです。